浜松から東海道線で東に向かい、天竜川を渡ります。
川を渡った先は磐田市。この付近はかつては、遠淡海国と呼ばれてました。その後、遠江国とも。これは、中央に近い琵琶湖を近淡海と呼ぶのに対して、浜名湖を呼び習わしたものです。
東海道の28番目の宿場である見附宿のちょうど真ん中に、今回の目的の淡海國玉神社は鎮座しています。真っ白い鳥居が印象的。
標柱には「遠江国総社 淡海国魂神社」とあります。「総社」とは、国の中にある神社を合祀した神社であり、平安時代に国府の近くに作られたようです。国司として国内全ての神社を回るのがしんどいので、一箇所にまとめて一気に参拝しちゃおう、ということなんでしょうか。
手水舎にある神紋は「州浜紋」ですね。
神門にある紋は「亀甲に剣花菱」。出雲大社と同じ紋です。大国主命を祀る神社でよく見られます。
神紋をくぐった先に、拝殿があります。反りの入った大きな拝殿。壇上までスロープになっているのがちょっと珍しい。
主祭神 | 大国主命(おおくにぬしのみこと) |
相殿 | 瓊々杵尊(ににぎのみこと) 木花開夜姫命(このはなさくやひめのみこと) 速玉之男命(はやたまのおのみこと) 事解之男命(ことさかのおのみこと) 伊邪那岐命(いざなぎのみこと) 御間城入彦五十瓊殖天皇(みまきいりひこいにえのすめらみこと) 大山咋命(おおやまくいのみこと) 宇迦之御魂命(うかのみたまのみこと) 天照皇大御神(あまてらすすめおおみかみ) 豊受大御神(とようけのおおみかみ) 赤髭神(あかひげのかみ) 須佐之男命(すさのおのみこと) 火之迦具土神(ひのかぐつちのみこと) 鴨御祖神(かものみおやのかみ) 諏訪若御子神(すわわかみこのかみ) 大己貴命(おおなむちのみこと) |
さすが「総社」。近隣の神々をこちらに集めて祀っています。「赤髭神」はどのような神様でしょうね。そして左右手前に目を移せば・・・
珍しい「狛兎」が鎮座されております。白いキメの細かい石材に、少しむっちりとした姿。紅白のしめ縄。上を見上げた姿は主祭神の大国主命を讃えているのでしょうか。
数ある神話の中でも有名な「因幡の白兎」。話の中では兎はサメを騙した悪者ですが、一説には大国主命の奥さんの八上姫が兎を使者として結婚相手を探したとも言われています。自分の身体を傷つけて大勢いる兄弟神様の中から清い心の持ち主の大国主命を見つけ出す役目をした訳です。この兎のお陰で大国主命と八上姫はめでたく結婚されたので、縁結びの神様としても慕われています。
〜境内「社記」看板より〜どうやら大国主命つながりでの狛兎のようです。
台座には「平成十八年七月八日」の竣工日が記してありました。2006年ということで比較的新し目ですね。そういえば最近、大国主命の総本山である出雲大社にも神使としての兎の像が設置されていると聞きました。今後増えていくと嬉しいです。狛兎ですので当然左右あります。向かって右側は鞠を手元に置いており、向かって左側は子兎が足元にいます。通常の阿吽の狛犬も同様の組み合わせです。とすると向かって右側が「阿形」左側が「吽形」ということで、よく見るとたしかに向かって右側のほうが、口元が開いているようにも見えます。
ということで、向かって右側”阿形”をぐるっと巡ります。鞠は「物事が良く転がるように」という意味があったりするらしいです。
後ろ姿のしっぽがキュート。
そして左側”吽形”です。子兎が少しニッコリしていて愛らしい。
胸もふさふさの毛のデザインが入っていますね。
拝殿の周囲の蟇股には、干支が配されておりまして、兎(卯)もいます。こちらも親子ですかねぇ。
ちょっとピンぼけ・・。拝殿を回り込んで、
本殿。遠江国の神々が集合してらっしゃいます。
さて、神社の手前となりには、旧見付学校があります。
現存している日本最古の木造の洋風小学校校舎とのことで、国の史跡に指定されているそうです。
おー。懐かしいー。
・・というほど歳はとっていませんが、趣が満載の校舎です。校舎の窓からは、淡海國玉神社を上から見渡すことができます。見付宿の古地図(江戸時代末期)が展示してありました。真ん中あたりに淡海國玉神社の鳥居と文字が見えます。
ところで、淡海國玉神社には宮司さんは常駐しておらず、御朱印なども、近くにある「見付天神 矢奈比賣神社」へ行ってくださいとあります。向かいましょう。
500mほど東側へ。段丘の上に鎮座しています矢奈比賣神社です。相殿で祀っている天神さま、つまり菅原道真公が人気。そして、もう一つ有名なのが、
威風堂々とした、こちらの霊犬「悉平太郎」。「しっぺいたろう」と読みます。凛々しい像が鳥居の近くに立っています。
日本の昔話の中でも結構有名な物語ですね。むかしむかし、この地方では、毎年、家の棟に白羽の矢が立った家の娘は、8月10日の見付天神の祭りに人身御供として捧げられるしきたりがありました。ある年、この地を訪れた旅の僧侶が、この話を聞き調べると、どうやらこれが神ではなく怪物の仕業であることを突き止めます。怪物たちは「信濃の国の悉平太郎に知らせるな」とささやいていました。そこで、僧侶は信濃へ向かい、悉平太郎を探したところ、人ではなく長野県駒ヶ根の光前寺で飼われている犬だと分かりました。
次の年の8月2日、祭りの日に人身御供の代わりに、悉平太郎を柩に入れて、見付天神へ備えます。そして現れた怪物を、悉平太郎は長い格闘の末倒しました。怪物の正体は、年老いた巨大な狒々(ヒヒ)でした。その後、人身御供の儀式は無くなったと言います。悉平太郎は信濃へ帰ったとも途中で力尽きたとも。確か「まんが日本昔ばなし」で見たんだと思いますが・・・この「しっぺいたろうにしらせるな」という声が怖くて微妙にトラウマになっています。
東海道の神社を巡っていて人身御供の話に出会うのは2回目です。豊川市の「菟足神社と兎神輿(愛知県豊川市)」でうかがった菟足神社にも、人身御供の伝承が残っていました。
拝殿です。本殿も大きい。どちらかというと「天神」様をメインに、学問成就を謳っていますね。天神様をお祀りしたのは、東海ではかなり古いようです。
祭神 矢奈比賣命(やなひめのみこと)
菅原道真公(すがわらみちざね)拝殿右側へ回り込んで奥へと進んでいきます。途中つつじ園的な場所も通り抜け、たどり着いたのが、
悉平太郎を祀る霊犬神社。なかなか犬が主神になっている神社も少ないのではないでしょうか。神犬研究会がありましたら、一級のスポットに違いありません。
悉平太郎は、長野県駒ヶ根市の光前寺にも祀られており、そこでの名前は「早太郎」であるとのこと。駒ヶ根は諏訪湖を源流とする天竜川のはるか上流です。
社務所に戻りますと、悉平太郎グッズがたくさん。そんな中に・・・
淡海國玉神社の狛兎をあしらった御朱印帳がありました。御朱印もこちらで頂けるらしいです。牛は天神さまの神使ですね。
神使達の活躍を喜びながら、見付をあとにします。
悉平太郎と同じように、天竜川をさかのぼり、二俣町にある『納涼亭』で食事をいただきます。天竜川の崖の上にあるこちら、鮎もうまいし、鰻もうまい。いつか悉平太郎の道をたどって、諏訪湖まで行ってみようかと思います。
(参拝:2019年8月)