出羽三山二日目。月山へ登って月山神社本宮に参詣して、湯殿山神社へ降ります。山々の豊かな表情と息づく植物、そしてずっとここにある信仰。神兎研で一番の「修験」となりました。
朝6:00、鶴岡駅のバスターミナルから出発です。登山の朝は早いのです。
鶴岡の平野を走るバスの車窓からは、これから向かう月山の山々が見えています。麓は天気はまぁあぁ良い感じですが、山の方は少し雲がかかっていますかね。
途中昨日巡った羽黒山の前を通り抜け、ずんずんと山を登り、8:00、2時間で月山八合目の駐車場に到着です。車で来れるのはここまでです。
八合目から、やってきた鶴岡〜日本海の方向を眺めます。少しガスがかかっていますが、良い天気。標高は1400mで、7月でも涼しいです。ちなみに月山山頂の標高は1984m。つまりここから標高では600mほど登るわけです。距離は大体5kmです。
登山道入り口です。装備は夏山登山の格好をしております。では登山開始!
ただ神兎研は、いきなり月山の山頂を目指しません。登山道が左右に分かれるのですが、右側の山頂ではなく、左側の「月山中之宮」を目指します。こちらは体力的に自身がなかったりという人向けの月山の遥拝所になっているとのこと。
この辺りは湿原となっており、木道が続いています。
湿原を歩く中、やがて雲が通り過ぎて・・
美しい風景が周りに広がりました。阿弥陀如来が祀られていたため「弥陀ヶ原」と呼ばれます。
高原に特徴的な「池塘(ちとう)」という池が点在しており、神が田植えをしたようなので「御田ヶ原」とも。高山特有の天国のような場所です。極楽浄土。
ニッコウキスゲやミズバショウなどの日本有数の高山植物の宝庫であるとのこと。
このときはキンコウカが一面に咲き誇っていました。
10分ほど美しい景色を歩くと月山中之宮へ到着。
そして社の左側に・・威厳たっぷりの見事な狛兎が鎮座してらっしゃいます。
自然石の上に伏せつつ、上方を見上げた凛とした姿。
高山の美しい青空に映えています。国内の神兎石像の中では、最大かと思います。
ヒゲのような立派な毛をたくわえた自信に満ちた眼差し。
いつでも天へ跳びあがれるような、たくましい後脚。
後ろから見るとたっぷりした尾が愛らしい。
そして、実は見つめる先には、月山本宮(=山頂)へ向かう鳥居があります。
こちらの神社は御田原(みだはら)神社。祭神は奇稲田姫神(くしいなだひめのかみ)。稲田・豊穣の神ですね。「弥陀ヶ原」の読みと似ているのは偶然ではないでしょう。
山小屋風の社務所には、中之宮のお守りがありました。背面に兎の絵が入っています。
また月山本宮のお守りを、こちらで受けることもできます。当然、神兎が入っている意匠です。
この地は月山本宮の遥拝所。
時間や体力がない場合、こちらで月山の神秘的な自然を体感しながら、神兎と語らい、本宮を遥拝することも可能です。
ですが、今回の目標はこの先。神兎と別れ、仰ぎ見る本宮へと進みましょう。
8:30。鳥居をくぐり、弥陀ヶ原から山頂を目指して進むと、木道は石が並ぶ登山道になります。高い木がないので見晴らしも良し。
ニッコウキスゲが迎えてくれました。
一ノ岳に向かい、比較的緩やかに登っていきます。
ところどころに積み石(ケルン)がされています。宗教的意味があるかはちょっと分かりません。休憩でお弁当食べている人たちが多いし、そのせいかもしれませんね。
弥陀ヶ原を振り返ります。雲と同じ高さに自分が来ていることを感じます。
更に進んでいくと、雪渓が現れました。
雪渓の脇を通り抜けます。ひんやりして気持ちいい。
季節は7月末。それでもこれだけ雪渓が残っています。
雪渓の白と雲の白、空の青と草木の緑。心洗われる眺望です。
この辺りが無量坂と呼ばれる場所かな。白装束の参詣者ともすれ違います。標高をどんどん上げていくため、なかなか体力を使います。そんな中、気持ちを励ましてくれるのが、
高山のお花畑。高山植物の花々は可憐ですね。
こちらはハクサンイチゲ。
紫色が鮮やかなミヤマリンドウ。
緑の中で繊細な極小の花を咲かせるハクサンボウフウ。
柔らかなピンク色のハクサンフウロ。
そして、こちら。神兎研としてはちょっと気になる名前の「ウサギギク」。雪解け後に、茎の根元の二対の葉が立って伸びて、それが兎の耳に似ているからとも、兎がこの葉っぱを好きだとも。
9:30。佛生池小屋に到着です。この辺りで大体九合目となります。
佛生池(ぶっしょういけ)に空と雲が映り込んでいます。周囲には祠や石碑、そして高山植物。あの世とこの世の境はこのような景色なのでしょうか。参拝者はこの池で“死に水”をとり、仏となって山頂を目指します。月山は「あの世」。この三山の参拝は「生まれ変わり」の旅とされていますが、月山で参拝者は死の世界を通り、そしてその先の湯殿山で“うぶ湯”を使い生まれ変わります。この辺りは後ほど湯殿山で。
池のほとりの祠は真名井神社。清らかな水の神性を感じる名前です。神仏が混交した信仰が見えますね。
佛生池小屋ではお土産も。山形の作家さん「はりこま屋」の月山うさぎや、コロナ禍を退けるアマビエの張り子がかわいい。
さて、佛生池を過ぎて、オモワシ山方面へ巻きながら登っていきます。
雲がかかり霊山の雰囲気が出てまいりました。
途中にある急勾配の「行者返し」。かの修験者・役行者(えんのぎょうじゃ・役小角)が月山で修行していた際、ここで足を滑らせると、蜂子皇子に仕えた除魔童子と金剛童子が現れ、修行が足らないので引き返すように言われたとのこと(結果、湯殿山で滝行を行ったらしい)。
今は登山道が出来ているので、役小角が苦戦した坂もひいこらなんとか登ります。
急勾配をすぎると、稜線に向かってのなだらかな登り道となります。
コバイケイソウの群生。
この辺りも各所にお花畑が広がっています。
みんな大好きチングルマ。弾けるように咲く可憐な花弁が、実にかわいい。
稜線のモックラ坂へ到着。石畳と木道が続いています。
日本のエーデルワイスであるミヤマウスユキソウ。
モックラ坂を進むと、最後の峰が見えてきました。
峰を回り込み大きな雪渓の上端を抜けていきます。最後の登りです。
雪渓からくる冷気。霊山から来る霊気。すでにあの世にいるに違いありません。
そしてついに見えました。月山山頂の祠になります。強風にも耐えるよう石垣で囲まれています。
振り返ってみれば、登って抜けてきた雪渓が見えます。現世は遠くになりにけり。
10:30。八合目から2時間半。標高1984m、月山山頂到着です!
月山本宮の開祖は、羽黒山でも触れた崇峻天皇の皇子である蜂子皇子です。
月山頂上(標高一九八四米)に鎮座する月山神社本宮は延喜の制による明神大社で東北唯一の官幣大社であります。御祭神「月読命」は天照大神の弟神で、月を象徴する神として、夜、海、魂や死後(命の再生、蘇り)の世界を司り、天下泰平、国土安穏、産業発展、五穀豊穣、大漁満足に霊園あらたかとされています。また月山は、祖霊安静の山としても尊崇されております。
(『月山山頂案内板』より)かつては月山神の本地仏として八幡大菩薩を祀っていたらしく、やがて浄土宗の東北への浸透に従い、阿弥陀如来を祀るようになったようです。「あの世」を治める阿弥陀如来と、同じ神性を持つ月読命が習合していったと思われます。
月山神社本宮へ入る石鳥居です。ここから先は神域となっており、撮影などをすることは出来ません。それでは中に入らせていただきましょう。
霊域について多くを語るのは憚られますが、神兎研としてはとても嬉しいことに、神兎に出会え、月の神にお参りすることが出来ました。登拝の苦労は報われます。
で、参詣完了。神域から出てきまして、登拝の認定証をいただけました。
さてここからは湯殿山に向かって下っていきます。10:50出発です。水平で4.5km。標高差が900mくらい。下りなので楽かなーとかこの時は思っておりました。
月山頂上小屋の脇を抜けます。振り返るとすでに、山頂はガスに包まれて隠されてしまいました。
尾根からの下り口になります。ここから一気に標高を下げていきます。
大きめの石がゴロゴロと。こちらから登ってくる登山者ともすれ違いますが、こちらはこちらでかなり辛そう。
これから進んでいく登山道が見えています。雪渓もまた見えてきました。ちょうど雪渓の上端を縫っていく感じですね。
牛首という辺りから緑深い山々を望みます。登りでは振り返らないと景色は見えませんが、下りではずっと雄大な山と谷を眺めながら進む感じになります。
コバイケイソウが群れています。
雪渓では夏スノボを楽しむ人達が。すごいな。
金姥(かなうば)の分岐から湯殿山神社へ更に降りていきます。
湯殿山神社のそばを流れる梵字川の源流の谷筋となります。
標高が下がってきたせいか、やや植物のバリエーションも低めの山のものになってきたかな。
浄心川の沢筋を進んでいきます。秋の紅葉時期とか美しそうですね。
装束場(施薬小屋)に到着しました。12:40。この辺りで雨が降り始めましたので、カッパを装備。天気がかなり変わりやすいですね。
ちなみにストックを使いながら進んできたのですが、やはり下りは膝にかなり負担がかかります。この時点で結構ダメージが・・。そして月光坂です。湯殿山神社の谷筋まで250mを一気に降りていきます。鉄はしごもいくつか。
月光坂は沢下りになります。急だし、滑るし・・・。足の筋肉がこの時点で完全に逝ってしまいました。
ようやく降りてきましたが、足が子鹿のようにガクガクに・・。最後の最後で、修験らしい感じになってしまいました。
梵字川沿いを、フラフラと下っていくと・・湯殿山神社の神域が見えてきます。13:50。結構時間かかりました。
そして、ここから先は、また撮影禁止となります。
湯殿山神社には社殿はありません。やはりあまり語るべきではないのですが、自然のままの脈打つような熱い力の御神体を素足で感じます。先述した月山神社で魂となり、ここで”うぶ湯”を使って、再度生まれ出ずるイメージです。
松尾芭蕉は『語られぬ 湯殿にぬらす 袂かな』と詠みました。なるほど。さて、神域から里側の入り口まで出てきました。
おさらいとなりますが、出羽三山は蜂子皇子によって開山された修験道の地。神仏習合の中では、大日如来が祀られていました。神仏分離後は、大山祇神、大己貴命、少彦名命の3柱が崇敬されています。
御縁歳は創建の丑年。入り口には牛の像が参拝客を迎えます。
入り口の大鳥居のところまで降りてきました。振り向くと月山も湯殿山も雲の中に隠されてしまいました。
この両部の赤鳥居はかなり巨大です。この巨大な鳥居でないと、背後に広がる湯殿山から月山の雄大な神威を外界から仕切ることが出来ないのかもしれません。改めてここに立ち、確かに、羽黒山から霊山を通り抜けて、俗世に生まれ変わってきた気持ちがします。月山の極楽浄土のような美しさ、自然の厳しさ、ひょっとしたら地獄だったかもしれない修験のような体験など、全てが「あの世」であり「夢」だったのではないかという感覚になりました。
とはいえ、普段たいして運動しない私にとっては、かなりの行でした。ここで14:30です。神兎探訪するときには、ご参考に。
レストハウスで、玉こんにゃくをいただきます。あとビール。清々しい体へ、少しだけの俗を取り入れる気持ちよさ。
月山参詣は確かに一生に一度はやっておいたほうが良いと、おすすめいたします。
(参拝:2021年7月)
「出羽三山 月山神社本宮の神兎(山形県)」への1件のフィードバック
コメントを残す
私達は、山形県の南部・置賜盆地を走る第三セクター鉄道・フラワー長井線の羽前成田駅で活動している団体です。西部には大朝日岳、葉山が連なり、葉山神社が建立されています。沿線に「白兎駅」があることから、葉山神社について調べることになりました。
葉山山頂には月山宮が建てられ、「御田代」と呼ばれる湿地があります。また、里地の遥拝殿前には賽銭箱を抱えた狛兎が設置されており、月山神社と多くの共通点を感じています。
ついては、貴会の記事の御田ケ原、狛兎の写真と関連する記事を弊会のブログに転載させていただくこと。そして、貴会のHPをリンクにて紹介させていただくことをご了解いただきたいと思います。
弊会のブログのアドレスは下記の「サイト」欄に記載しておりますのでご確認いただければ幸いです。ご検討のうえ、ご了承賜れば幸甚です。