富山県の高岡市は銅器の町。なんと、こちらで作られる高岡銅器は国内生産額の9割を占めると言われます。そんな町から神兎探訪スタートです。
街なかには、実に様々な銅像が設置されています。高岡駅前には万葉歌人の大伴家持がいたり、商店街には現代の女性が座っていたり。誰でも自由に街を歩きながらアートを鑑賞できる”パブリックアート構想”で街づくりをしているらしい。
また、銅器の高岡を象徴する像としては、
こちらの高岡大仏。100年前の銅器技術の粋を集めて完成されたものとのこと。
そんな中、兎の像もありました。
タイトルは「伝えの扉」(制作:2002)。
『鳥獣戯画』の意匠を用いています。天秤で鍋を担いだ兎と蛙。
高岡の「過去・現在・未来」をキーワードに鳥獣戯画から抜け出した動物たちが、過去から受け継いだメッセージを携え、高岡の明日に向って跳び上がる様子をイメージしています。
中央にある「扉」は「現在」を象徴し、少し「開く」ことによって無限の可能性をシンボライズしています。説明書きより
確かに鍋の中には謎のメッセージが入っています。これが「過去」。
門の前で、先へ向かえと囃し立てる「現代」の兎。
そして門の外で走り抜ける「未来」を表す金の兎。
「未来」から「過去」を振り返るとこんな感じ。素敵なテーマですね。
その他にも童話などから題材をとった像など、まさに銅像の街。
さて本題に戻りまして、その高岡市から車で30分ほど内陸側に入ります。
越中一之宮 高瀬神社です。
越中での一之宮とされる神社はいくつかあるようです。通常一国一社ですが、時代の趨勢、資料の食い違いなど様々な理由で、こちらの高瀬神社のほか、気多神社(高岡市伏木/祭神:大己貴命・奴奈加波比売命)、射水神社(高岡市古城/祭神:瓊瓊杵尊)、雄山神社(立山/祭神:伊邪那岐神・天手力雄神)が一之宮とされているようです。
境内に入ってみます。砂利がきれいに敷き詰められ、手入れが行き届いている気持ちの良い空間。大きな手水舎は伊勢神宮から。
本殿です。ご祭神は、
祭神 | 大国主命(おおくにぬしのみこと) |
配祀 | 天活玉命(あめのいくたまのみこと) 五十猛命(いそたけるのみこと) |
大国主命と天活玉命が祀られているのは、先述の気多神社も同様。越前~越中の日本海側に多い祭神です。
天活玉命は、邇藝速日命に随伴して降臨したとされる32柱の防衛の一柱で新田部直などの祖。いわゆる天孫降臨の瓊瓊杵尊より先んじて大和に降臨していた神々です。大国主命はもちろん出雲の国津神の代表ですし、五十猛命もスサノオの子の林業の神。日本海側のより古い古代勢力の存在がうかがわれます。
お参りを済ませまして、右手の方に向かいますと、
容姿端麗な神兎様が。
銅像の輝きが美しい。撫でてご利益をいただくため、光り輝いております。
「大国主命」と「うさぎ」
ご祭神の 大国主命(大黒様)は 神話「因幡の白うさぎ」において 過ちを犯し 体に傷を負った「うさぎ」のケガを癒やされ 悪しき心をも改心されたと記述されております「なでうさぎ」
この神話に因み 大国主命(大黒様)の御神徳を広くご参拝の方々にお受けいただきたいと願いご神前に置かれました
拝殿正面にて参拝祈願された後に ご自分の癒してもらいたい部位と同じ所を祈念しながら撫でて 宏大無辺なる大神様の御加護をいただきましょうなでうさぎ像製作者 田畑功(日展作家)
平成十六年四月吉日
「「なでうさぎ」由来」より
なるほどご祭神の大国主命のエピソードである『因幡の白うさぎ』からの兎ですね。
もちろん高岡の銅像です。さすがのなめらかな造形。銅像は触って鑑賞するという方法があるらしいですが、なでうさぎにはぴったりです。
ちなみに、制作した田畑功氏は高岡市出身の彫刻家で、作成した著名人などの像は全国に1千体あまり存在するとのことです。
拝殿前に戻り、ガラガラの綱(正式名称は“鈴”でいいのでしょうか?)を改めてみると、ここにも木彫の兎が綱の周りに配されていました。あまり見ない装飾ですね。
綱の周りをクルクル巡るように2柱の兎が波に乗っています。
ひとかたまりの木を彫り抜き、立体的に文様を刻んでいます。この技術、実はこの後紹介する、高瀬神社から近くのもう一つの工芸の町、井波の木彫です。
井波の木彫はまだあります。向拝の龍や鳥の見事な彫刻。
拝殿の梁には、干支が彫られています・・・あ、ということは・・・
見逃すところでした。向拝のちょうど裏側に兎の彫刻。ダイナミックな波に3柱の兎が跳ねていました。
ほとばしるような波の表現と、伸びやかな兎の姿が、見事に彫られています。彫り込むというよりは、浮き出ささせる、と表現したほうが良いかもしれません。高い技術です。
井波についてはまた別記事で、、、
さて、本殿脇を抜けると、功霊殿があります。近隣の戦没者や地域の功労者をお祀りする社です。
功霊殿の本殿は、前の本社の本殿だったとのこと。こちらにも井波の彫刻がされています。
その石灯籠にも兎が配されていました。高瀬神社では、大国主命の神使としてでしょうか、兎が多く嬉しくなります。
こちらは向かって左側。
こちらが右側です。全て波兎の意匠です。
拝殿から戻った石灯籠にも、兎が、いらっしゃいました。火袋の下は、干支としての兎。基部にも兎と亀が刻まれています。
荒く削り出した兎は凛々しいですね。
苔むした球のような波濤に跳ねる兎も、独特ののチカラ強さがあります。この独特の石細工、関西方面で見かけることが多い気がしますが、どこのものなんでしょう?
さらに境内を戻った左右の石灯籠にも兎が刻まれていました。こちらが向かって左側。
こちらが右側です。
社務所に向かいますと、さすが縁結びで有名な大国主命。神兎の縁結びお守りがたくさんあります。
こちらは心身健全お守り。因幡の白うさぎ伝説で快癒し、医療の神ともされる神兎の御神徳です。
子供守りも兎文様です。
それにしても、銅、木、石の匠たちがなした神兎がこれだけ揃う神社もありがたいですね。
ちなみに、高岡駅には某猫型ロボットの銅像もあります。作者の藤子先生がご出身だとか。
作中では未来から来たロボットでしたが、この地の工芸の技術で、未来の神兎が作り出される予感もいたします。
(参拝:2015年12月)